「ヒミズ」を考察 | 偽脚本書きが漫画に挑戦

「ヒミズ」を考察

タイトル ヒミズ 作者名 古谷 実 全4巻

内容:「住田」は、モグラのようにひっそりと夢を追うこともなく生きることを望む中学生。しかし母親が蒸発したことが発端となり転落していく。普通に生きることを望むにもかかわらず「住田」はどんどん不幸になっていく。そればかりか彼を取り巻く登場人物も「住田」のせいで不幸になっていく。「住田」は自分が望んでいないのに不幸になっていくことに運命を感じる。「住田」は運命を感じながらも、なんとか生きる目的を持つために世間にいる犯罪者を自らの手で殺すことを思い立つ。つまりこの作品の見せ所とは、人間の転落していくさまをリアルに見せる所だ。


笑いの時間は終わりです。これから不道徳の時間です。

感想:稲中卓球部が代表作の作家にもかかわらず、ヒミズはひたすら暗い。主人公がとことんどん底に落ちていくさまは、高校時代の私に強烈な「リアル」を感じさせた。第一巻では、多少笑いの要素はあったが、主人公が父を殺してからはひたすら暗い世界観となった。漫画という媒体にあってこれほど暗い作品は売れない。女の友達にヒミズを貸したところあまりの暗さに読む気になれないと突っ返された。しかし太宰治の「人間失格」のような本物を感じさせる作品に興味があるならこの作品は読む価値のある名作だと思う。

脚本としての考察

登場人物設定

主人公「住田」:正義感の強い、ただ普通に生きることを望む中学生。生活レベルは釣り堀屋を営む家庭で貧乏。母子家庭。父は蒸発

準主人公「正造」:住田の友達。頭が悪くいじめらていたが住田に助けられる。住田を慕うあまり犯罪に手を染めてしまう。

「住田」という主人公が普通を望む理由とは、おそらく現状が悲惨だからだろう。だから夢を追わないから、彼が無気力であるとは言えない。


この作品の狙い:現実に生きていると、友達や家族が言うことがまったくのでたらめに聞こえる時がある。その時、人間はどういうわけか本質を求めるようだ。つまり本物の言葉とは、不幸のどん底にいる人間から吐かれるという固定観念を巧みに利用したことで、この作品が現実を見せてくれたと熱狂する読者を獲得したと言えよう。こういった作品を書く注意点としては、独りよがりにならないために主人公に共感を覚えさせなければならない。古谷実の絵柄が、典型的なアジア人顔であることも共感を誘うための手法なのかもしれない。